八月十八日。〔小春目線〕

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……けど、案の定寝られるはずもなく。 闇の中では、月明かりで障子がぼうっと青白く照らされている。 しばらく目を瞑っていたけれど、目を瞑っていても寝られないものは寝られないので、ただ天井の辺りをぼーっと眺めていた。 するとそのうち、布団の中では少し暑苦しくなってきて、外の清らかな空気でも吸おうと布団をまくって外へ出た。 外の空気はひんやりと冷たく、熱がこもった肌を撫でるように流れていく。上を見上げると満月がとても綺麗だった。 コトン。 ふとそんな音が聞こえたのでそれが聞こえた方へ目を向けると、同じように満月を見上げて酒を飲んでいる男がいた。 男はこちらを一瞬見てから手元のお猪口に視線を戻す。けれどそれはまた、「はぁ!?」と理解できないとでもいった声と共に私の方に戻される。 「いや、有り得ねぇ。あんの糞ガキは死んだはずじゃねぇか───って、何考えんだよ俺は……」 一人で喋って、それに自分で突っ込んでいる。 なんなんだこの人は……。 きっと今の私の顔は盛大に眉間にシワが寄っていることだろう。だってこの人のお酒を飲む姿は様になっているのに、言ってることは意味不明。 「おい、ぼーっとしてんじゃねぇよ」 こんな酔っ払いに絡まれるくらいなら、部屋に戻った方がマシだと判断した私は踵を返した。 「お前、片桐小春だろ」 その声で足がピタリと止まった。振り返ると男は何も無かったかのようにお酒をあおぐ。 「なんで私の名前……」 「当たり前だろ。お前をここへ連れてきた張本人なんだから」 「あなたは一体……」 「俺はここの副長だ」 副長? …………って、まさか。 歴史に疎い私でも知っている。壬生浪士組、後に新選組となる副長といえば───土方歳三しかいない。
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