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「……どうしてこんな所で呑んでるんですか?」
ふと疑問に思ったことを、深く考えずに私は口に出していた。それに対して土方さんは面倒臭いととでも言いたげな顔をしたけど、話してくれた。
「斎藤がよ、よくこうやって縁側に座って月を見上げているんだ。その日はいつも千歳の月命日だった……」
「え……」
この場合なんて、返したらいいんだろう……。
土方さんも一さんと同じように、千歳さんに思いを馳せながらこうして月を見上げていたのかな……。
「斎藤と一緒にするなよ? 俺は別に酒が呑みたかっただけだ」
酒が呑みたいだけならば自分の部屋で呑めばいいのに、とは言えず。口ではそう言っているけれど本音は違うはずだ。
「こっちも聞いていいか? 何故お前は吉田のもとから離れた」
「そ、それは……」
思ってもみない質問だった。
答えてしまえば私は吉田さんに対する想いを認めてしまうことになる。だけれどそれはまだ出来ない。受け止める準備が出来ていないからだ。
私の目が相当泳いでいたのか、土方さんは私の返答を待たずに話し出した。
「大方想像がつく。吉田を思って身を引いたんだ、違うか? 自分が重荷を背負えば全てが丸く収まるとでも思ったんだろ?」
「……」
言葉が出ない。この人はどこまで知っているのだろう。
「そういうところ本当にそっくりだな。あいつもそうだった……。自分の身を投げ打ってでも他人の幸せを願った」
「千歳さんが?」
「ああ。皮肉なもんだ、これじゃあ千歳を思い続けたあいつはどこまでもいっても報われねぇじゃねぇか」
そう言った土方さんはお酒をくいっと煽った。
「お前にはちゃんと働いてもらわねぇとな。なぁ? 片桐さんよぉ」
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