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「だーっ! 本当にてめぇといると調子が狂う」
そう言って土方さんは自分の髪をガシガシかいている。思っていたよりも悪い人じゃないみたい。今話していてそう思った。
「ったく。まあ取り敢えず明日から頼むぜ」
「え? なんのことですか?」
「そりゃ人質として乞食になられるくらいなら働いてもらわねぇと」
「いや、だって私に出来ることなんてありませんよ」
まさか隊士として過ごせなんて言わないよね?
「馬鹿言え。長州の屋敷で女中やってたんだろ? なら女中として働いてもらう」
「女中!? ──待ってください! 私、つい昨日刺されたんですよ? せめて数日は養生を──」
「ピンピンしてるから大丈夫だ」
「そんな大丈夫じゃないですよ!」
全然大丈夫だけど。刺されたことに関しては何事も無かったかのように心配いらない。
それよりも、連れてこられて明日から女中として働けなんてそんな虫のいい話の方が受け入れられない。人質とか言っておきながら働けなんて。
「心配するな。あれだろ? 人質なのに女中として自由に動いていいのかってことだろ? 大丈夫だ、人質に変わりないからこの屯所から一歩も出さねぇよ」
「そういうことじゃないです……」
なんだか疲れる。土方さんはこうやって話の筋を逸らして丸め込むつもりだ。
「心配するなって。見えないように監視はつけるから」
「だからそういうことじゃなくて!」
「何が不満なんだよ」
「どれもこれも不満だらけです! 人質として連れてこられて働かされて、それも刺されたばかりだっていうのにこき使おうなんて、あなたは悪魔か鬼ですか!」
「鬼だが?」
普通自分で言わないでしょ!
後世では確かに土方歳三は鬼の副長と喩えられるけど自分から言っていたとは、さすがに呆れる。
「じゃあ聞くが、一日中ずっと部屋に軟禁されるのとどっちがいい? お前確か、島原ではそれに近い生活を送っていたと聞いたが」
「そ、それは、」
否応なしに女中をしていた方が確かに気持ちの面では楽だ。
「なら交渉成立だな。明日から頼むぜ」
「ちょっとっ」
問答無用に話を終わらせた土方さんは、そそくさとお酒を持って部屋に戻っていってしまった。
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