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「遅くなってごめんなさい」
洗濯物を抱えながら若干駆け足で走ったので、太ももの前側が少し辛い。
「と、とんでもないです! それよりも、早くこれを終わらせましょう」
二人で洗濯に取り掛かった。
お小夜さんはこうして見ると、性格とは打って変わって仕事はテキパキしている。先輩女中さんなんかに対してはいっつもペコペコ頭を下げてて、逆に私のが堂々していたりするくらい。
それくらい気弱な性格なのに、手際の良さにはすごいなぁと感じていた。
「お小夜さんって、手際がいいですよね。私なんか全然ダメで……」
「そ、そんなことないですよ!」
「だって、前いたところは結構文句言われたものですよ、ははは」
自分に対する嘲笑が混じった苦笑い。
よく吉田さんには、歩くのが遅いやら、部屋の片付けもなってないやら、お茶をすぐ淹れろやら、思い返すだけで結構な文句が思い出される。
「私、小春さんが羨ましいです」
「どうして?」
「確かに見た目はどこにでもいそうな容姿だけど、目上の人にだってはっきりものを言うじゃないですか。私はなかなか……」
そう話すお小夜さんは、微笑んでいながらもどこか晴れない顔を見せている。
はっきりものを言うと言われたけど、私のはただ心の声が勝手に漏れているだけだ。
「ある人が言ってたんですけど、」
「?」
「自分の価値は自分で決めるんじゃない、他人が決めるんだって言われたことがあるんです。自分を卑下していたとしても、他人は自分の価値を認めてくれるんだって。そんなこと言われた気がします。お小夜さんも自信持った方がいいです絶対!」
私がガッツポーズをしながらニコッと笑うと、ぷっとお小夜さんは吹き出して、ケタケタと笑ったのでつられるように私も一緒に笑った。
つい一週間前に言われた鬼の副長の受け売りなんだけども。
「おい、これ洗って」
二人で笑っているところへ、三人組の隊士が近づいてそのうちのリーダー格のような男がそう言って、私たちが洗っている真っ最中の洗濯物の上にどさりと何かを放ってよこした。
お小夜さんのビクッとした動きと同時に曇る表情。それを私は見逃さなかった。
「なんですか、それ」
「見てわかんないの?」
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