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本当は分かっているけども。
「はい、分かりません」
「おいおい、まさか本気で言ってるのか? これは褌だ。俺がさっきまで着てたほかほかの褌だ」
「うぇ」
「ああ!?」
「いえ何も!」
ぶっちゃけキモい。リーダー格の男の後ろにいる腰巾着の二人もニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。
「これが何か?」
「だから洗えっつってんの!」
そんなに言われても無理なものは無理だ。
ここの決まりでは、褌は個人で洗うことになっているとお小夜さんは私に教えてくれた。隊士の間でもそれは当たり前だろうに、わざわざ女中の私たちに頼みにくるとは、何がしたいのか。
「嫌です。自分で洗ったらどうですか」
「俺に洗えってのか!?」
「じゃあ誰が洗うんですか」
「お前らだよ。なあ? お小夜」
「そ、その……」
「どうしたんだよ、いつもみたいにペコペコ頭下げねぇのかよ」
こいつらほんとに感じ悪い。いや、感じ悪いじゃ生ぬるい。気色悪いんだ。
今の言葉から察するに、私がここに来る前はお小夜さんはこいつらの言いなりになって言うこと聞いてたんだ、きっと。
「言うこと聞くことないよ、お小夜さん」
洗濯の手を止めて、俯くお小夜さんに私は従うことはないと言った。けど、お小夜さんはそうは出来ないと言う。
「なんで?」
「だ、だって……この人達……」
私たちの様子を見ていた三人組の隊士。リーダー格の男が、まるでどこかのご隠居さんのお供が印籠を取り出すかのように、おもむろに何かの紙を見せてきた。
途端、お小夜さんが小さく「きゃっ」と悲鳴をあげて、頬を赤らめながら手のひらで目元を隠した。
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