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男が取り出したものに対して、どうしてお小夜さんがそんな反応をしたのか私には全然分からなかった。唯一分かるのは、紙には日本画らしき昔の絵しか描かれていないことだ。なんの絵は知らないけど。
「か、勘弁してく、ください!」
「お小夜、全くお前はウブだよなぁ。こんなのでも目も当てられないのか。こっちの女は普通にしてるのに」
「え、それ、なんの絵?」
「おいおい! まさかお前も知らないのか? これはだな春画だよ春画!」
「春画?」
「男と女が交わりあって営みしている絵だよ!」
「げっ」
まさか、そんな絵がこの時代にあるとは思いもしなかった。いや、待てよ、確か高杉さんだか入江さんだかもこんなようなの持ってなかったっけ?
まあいずれにしても──
「気持ち悪い……」
明らかにこれはセクハラだ。現代でいう、部長が今日の下着は何色なの? と部下のOLに聞いているようなものだ。
「こ、小春さん、も、もういいんです。早く引き受けて立ち去ってもらいましょう」
お小夜さんは目を隠しながら私に言ってくる。
「でも──」
私は三人組の隊士たちに反抗しようとしたけど、お小夜さんは勝手に褌の洗濯物を引き受けてしまった。すると、男達は満足気にその場を立ち去って行った。
「お小夜さんどうして」
「ま、前に一回だけ反抗したら、騒がれて他の隊士さんを呼ばれてしまって……、私が春画の持ち主だとお、大声で……」
「なにそれ! もちろん違うと言ったんでしょ?」
「はい。でも、信じてもらえませんでした。女中ごときが騒ぎを起こすなと」
呆れて言葉が出ない。その件は上に通したのかと聞くと、土方さんに今までのことも含め抗議をしたが、軽くあしらわれただけでそれ以来何も言えないそう。
「役立たず……」
「え?」
「ううん、なんでもない。それよりも、何かあいつらに痛い目見てもらわないとね」
「そんな! そんなことしたらもっと酷くなります……」
「別にそこまでひどいことするわけじゃないよ? 何か本人たちも気づかないような小さな仕返し、してやろうよ!」
お小夜さんは鳩が豆鉄砲食らったかのように、目をぱちくりさせた。そんなこと今まで一切考えつかなかったとでも言いたげな表情。
「何かいい策はあるんでしょうか?」
「うん、何も考えてない!」
「そんな、小春さん!」
「今から考える。だからちょっと待ってて」
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