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私はその足でお小夜さんのもとへ向かった。
だし巻き玉子を使って仕返しをするという考えを伝えると、偶然にも周りにいた他の数少ない女中さんたちが喜んで協力すると言ってくれた。
聞いたところによると、お小夜さんだけでなく他の人にも同じようなことをしているらしい。酷いと夜中に部屋に呼ばれて……なんてこともあったそう。
女中さんたちには、とりあえずこうすると伝えた。
今晩の夕餉には全員のお膳にだし巻き玉子を入れる。けれど、あの三人組の隊士には私特製のだし巻き玉子を出す。三人組の隊士は味がおかしいことに気づくけど、周りの人のは普通のだし巻き玉子だから、ふざけてると思われるだけだろう。
もしこちらに問い詰めてくるなら、食あたりだと頑なに通して欲しいと。
その時、みんな一様に私のだし巻き玉子についてどんな味なのか食べてみたいとものすごく興味を持たれたけど、食べない方が身のためだと伝えたら、悲しいことにすんなり引き下がってくれた。
さあみんなで夕餉の準備をするぞ! という時。
お小夜さんが見当たらないので見つけてきてほしいと、一人の女中さんに頼まれた。
もしかしたら井戸端の方にいるかもしれないと思った私は、何も考えずに歩いていると、少し先の方で人が話をしているのが聞こえた。
「だ、だからっ、迷惑をしているんですっ! どうか、一言だけでもいいんです! な、なんとかしてもらえませんか?」
お小夜さんの声だ。そして、話している相手は土方さんだった。漏れ聞こえた話の内容は、恐らく三人組の隊士による嫌がらせのことだろう。
「何度も言っているが、それはお前にも何か問題があるんじゃねぇのか? だからあいつらもそういうことをするんだ」
「そんなことっ!」
「ああいうのは、反応を見て楽しんでるだけなんだから、多少はどうってことないだろ」
「ですが!」
「そういやお前、前に春画を持っていたっていう女中だろ? 男に飢えて、色目でも使ってたんじゃねぇのか?」
「……」
なにそれ。
聞くに耐えなかった。お小夜さんが目尻に涙を貯めているのが目に見えてたし、何よりも目の前にいる男に対して非常に腹が立った。
だから、言葉よりも先に手が出てしまっていた。
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