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炊事場ではあらかたの仕事は終わっていて、今までならお茶を飲んだり、隅の方でご飯を食べ始めたりする人がいたけど、今日は私のだし巻き玉子がどうなるのかと女中さん達は浮き足立っていた。
「ねぇどうなった?」
「まだ分からないです」
「そう。見た目は普通のだし巻き玉子なのにねぇ」
一人の女中さんがそう言った。一人だけ興味本位で味見をしたいと言った人がいて味見をしてもらったけど、その人は未だに厠から出てこない。
その時。
広間におかわりのお櫃を持っていった人が、状況を知らせにこちらに戻ってきた。
みんなでどうなったかと期待の視線を向ける。その人は何も言わず、ただゆっくりとうなづいただけだった。
奥の広間の方からは、今までの団らんとした声が慌ただしい声に変わり、こちらまで聞こえてきたのでそこで成功したのだとわかった。
「お小夜さん!」
きっとあの三人組は不味すぎて悶えてるはずだ。二人で様子を見に行こうと、炊事場を出た時だった。
「おい! 副長が倒れた!」
「誰か医者を呼べ! 早く!」
怒鳴り声にも似たような緊迫とした声が耳に入ってきて、とにかくその内容に凄く驚いた。
土方さんが……?
それは炊事場にいる女中さんたちにも聞こえたみたいで、揃いも揃って「どういうことだ」という顔をして、状況を確認しようと炊事場から出てきた。
バタバタと、そこかしこで足音が入り乱れている。
その中で、一さんを見つけてどういうことなのかと訊ねた。
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