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「ええか? 俯瞰的に見て、一番疑わしいのはこいつや。一週間前に来たばかりで、人質の身やし、隊士に仕返ししようとしたやて? そんなんする必要あるか? 来たばかりのこいつに、仕返しする謂れは無いやろ」
もっともだ……。
山崎さんの言っていることは、間違っていない。
私はそこまであの隊士達に恨みは持っていないし、今回のことは単にお小夜さんに協力したかっただけだった。今のお小夜さんの状況が少しでも良くなればと思って言い出したことだ。
「流され過ぎや、蝶ちゃんも斎藤助勤も、女中も。何唆されてんねん」
この場にいる人みんな押し黙っている。
山崎さんの言い分は間違っていないから、反論も出来ないんだ。
私にはきっと選択肢はない。有罪か無罪かを決めるのは私じゃないから。なら、疑いを晴らすにはどうしたらいいの? どうすれば〝やっていないと〟信じてもらえるの?
「すーちゃん、小春ちゃんは毒を盛るやなんて、絶対しいひん子や」
「せやから──」
「もし、牢屋に入れる言うなら、私も入ります」
「なっ! 蝶ちゃん!」
「絶対譲らへん!」
また二人の言い合いが始まるかと思いきや、沖田さんの言葉でその場の注目が一気にそちらにいった。
「私、土方さんのだし巻き玉子を食べましたけど、なんともありませんでしたよ?」
「えっ?」
全員口を揃えてどういう事だと問いただすと、なんと沖田さんは味見という名の嫌がらせで、夕餉を食べ始める前に土方さんのだし巻き玉子を一つ拝借したと言い出した。
「おい! 総司! 何故それを先に言わない!」
「だって皆さん、それどころじゃないみたいだったから」
その言葉にほとんどの人が大きなため息をついた。
あれ、沖田さんって馬鹿?
それどころじゃないのは、土方さんが食べたのが毒入りのだし巻き玉子だったからであって、それを作ったのは私じゃないかと疑いをかけられていたはずなんだけど。
それもさっき、私は沖田さんにだし巻き玉子には何もしてないよね? って聞いたはずなのに、何もしていないって答えてた。なんで──あっ! 私に迷惑かけないように黙ってたってこと?
単純すぎる……。
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