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そんな中どうにも収拾がつかないこの状態に、口火を切ったのはこの場にいるはずがない人物だった。
「おい山崎、小春を責めたくなる気持ちは分からなくはねぇが、下手人だと決めつけるには少し早い。あと総司、お前は後で覚えとけ」
「土方さんっ!!」
この場にいる者全員が驚いた。今まさに床に臥せっているはずの人物が元気そうに……とまではいかないけど、自分の足で立っている。
「副長! 何してはるんですか!! 寝てなあかんでしょ!」
「うるせぇよ」
そう言うその人は、言葉とは裏腹にお腹を少し抱えて体がだるそうだ。顔色も土気色をしていて聞かなくても分かるくらいに無理を押してこの場に来ている。
「そんで、話を少し聞かせてもらったが、俺に毒を盛ったやつは明らかにここに居る誰かだろう。それが複数なのか単独なのかは分からねぇが」
そう言って女中さん達を見回した。
「証拠もないのに犯人を決めつけるには些か性急だろう。総司の話が本当ならば尚更だ。そんなことだから、小春は取り敢えず蔵にでも入れておけ」
「え!? ちょっ、嫌ですよ! なんで蔵に入れられなきゃいけないの!」
「疑わしきは罰せずとはよく言うが、もう一度何かあったら堪ったもんじゃねぇしな」
「土方さん! 小春は何もしていません! それなのに───」
「斎藤、言動には気をつけるんだな。こいつはあくまでも人質の身だ。そいつを庇うってことはどんな意味を持つのか、それが分からねぇお前じゃないだろ」
一さんがそこまで言われたところで、私も反論する気が失せてしまった。私が何度やっていないと言っても土方さんは恐らく意見を変えることはない。
一さんが私を庇うと立場が危うくなるのなら、大人しく言うことを聞くことがこの場において最善なんだ。
そんなことだから結局、私は監視付きで蔵に入れられることになってしまった。明日また改めて調べるということなのでとりあえずは今晩だけということらしい。
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