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さて、どうしよう……。
山崎さんに連れられてやってきたのは、屯所の敷地の端っこにある小さな土蔵だった。辺りはもう暗くて、行灯片手に歩いていても視界は私の足元と目の前を歩く山崎さんを微かに映すだけ。
土蔵の中に案内されると、中はホコリっぽくて咳き込みたくなるくらい。しばらく誰も入っていなかったようで、空気の入れ替えもほとんどされていないみたいだった。
「一晩だけや」
「はい……」
正直こんなところに長くはいたくない。山崎さんにはどっかそこら辺にでも寝っ転がっとけと言われた。呆然と立ち尽くしていると、山崎さんは私から行灯を奪い取ってそのまま行こうとする。
「ちょっと待ってください! 行灯も持っていくんですか!?」
「そや。なんや、文句あるんか?」
「真っ暗は嫌です!」
「油が勿体ないやろ」
「うそぉ……」
そのまま行ってしまった。
土蔵の扉の外から、南京錠を閉めるカチャカチャとした音が聞こえる。
幸い、土蔵の天井近くに出窓のような換気口のような小さな窓があってそこから月明かりが漏れ出ていたので完全に真っ暗闇というわけではない。
でもやっぱり不気味だ。何かが出そうという雰囲気はある。
「やだなぁ……」
人一人が入れそうなくらいの大きさの長持がいくつも並べられていたので、そのうちの一つの上によじ登って腰を下ろした。
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