手放したもの。

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吉田さんがあんなことになってしまってから、不安と心配から夜も眠れなくなってしまった。倒れてから一週間たった今も、意識が戻っていないことがさらに私の不眠に拍車をかけていた。 「うげ、目の下にクマが出来てる……」 鏡に映る顔を見ると、自分でも分かるくらいにやつれてきている。 不安と心配と言えばその一言に尽きるけど、その実、色々なことが複雑に込み上げていて自分でも何をどうしたらいいのか、一週間まともに寝ていない私の頭ではまとまらなかった。 吉田さんの意識が戻らないこと。それでもまだ吉田さんは投獄された身の上だということ。治療を受けているのが越後様の屋敷だということ。一体誰が吉田さんに毒を盛ったのか。 私はこれからどうしたらいいのか……。 「姉上? 眠れてないの?」 「ごめんね大丈夫だよ」 「でも手動いてないよ」 「……それは本当にごめんなさい」 今はふさちゃんと一緒に井戸端で洗濯中だった。つい手が止まっていたらしい。 「兄上のことなら心配ないよ」 「うん、そうなんだけどね。吉田さんはきっと大丈夫だって思ってはいるんだけど」 「何が心配なの?」 「うーん、色々かな。これからどうなるんだろうって。私はどうすればいいのか分からなくなっちゃったっていうのかな」 「そんなの、この家にいて兄上のこと待ってればいいだけのことじゃん!」 「待ってるだけでいいのかなぁ。吉田さんいつ放免されるか分からないんだよ? その前に意識も戻ってないし。その間ここにいることになるけど迷惑じゃないかな」 「迷惑じゃない! いていいの! もう家族も同然なんだから!」 「ありがとう」 ふさちゃんの素直で屈託のない真っ直ぐなところに救われる。だけど、ただ待っていればいいと言われて、果たしてそれでいいのか。どこか引っかかるというか、モヤモヤするというか。 「もしかしてりつ様のこと心配してるの?」 「え?」 「兄上は今、越後様の屋敷にいるでしょ? りつ様が看病してたって何ら不思議じゃないけど、心配なの?」 「うん……」 少し焦っているのかもしれない。吉田さんの傍にりつ様がいることに。吉田さんの性格からして、簡単には近づけないとは思うけど今は昏睡状態で状況が全く違う。 「たとえ意識がなかろうが、兄上はそう簡単になびかないよ。第一姉上以外の女の人は基本的に嫌いだし」 そうだった。今まで間近でそれを見てきたのだから、もっと自信を持ってもいいのかもしれない。私も最初は嫌われていたけど。 「そうだね」 「そうだよ。だから早く洗濯終わらせようよ!」 「うん!」 そんな不安をかき消すように、夕方には吉田さんの意識が戻ったという知らせが入った。
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