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不意に、読んでいた雑誌に影がかかった。
何だろ?
そう思って顔を雑誌から離して、その影を見上げると、
「えっ、誰?」
なんと、知らない男が私の雑誌を覗き見ていた。
病室に入ってきたことに全然気がつかない程、音も立てずに私の傍らにその男が立っている。
綺麗な顔……。
切れ長の目元がかなり鋭いけど、俗に言われるイケメンのように端整な顔立ちをしている。何故こんな所にいるのか、迷路のようなこの病院で迷ってしまったのか、一応声をかけてみた。
「あ、あのどうしたんですか? もしや迷っ──」
「やっぱり君だったんだね」
「えっ?」
「会いに来たんだよ、君に」
その男の言っていることが理解出来ずに思わず目をしばたたかせてしまう。
「あの、何を言っているのかさっぱり分からないんですけど。迷ってしまったんじゃないんですか?」
「何言ってるの、小春。僕は君を迎えに来たんだよ」
「な、なんで私の名前を──」
今迎えに来たって言わなかった? もしかして、この男の人……。
声が、夢で聴いたのと微かに似ている気がするけど、何せ、その夢は声だけしか聴こえなかったから、この男の人なのかどうかは確かめようもない。
ただの偶然のように私は思えるけど……。
「僕が分からないの? ということはまだ……」
「病室を間違えたんじゃないですか? 私、あなたとは知り合いじゃないですし」
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