一の章

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その視線をまともに受け、固まりながらも呆然と二人を見送った後――。 イアスは混乱しそうな頭を何とか整理し、状況の把握に努めた。 ――霊晶が、精霊の魂……しかも意思が在るだと……? 霊晶とは精霊の放つ魔力を結晶化させた物。それが一般的に知られる定説だった。 力その物が精霊の魂であるなど、イアスも初耳である。 ――あの娘は、『私達の』と確かに口にした。ならば彼女も精霊と言う事なのか?奇妙な少女ではあったが……。 未だに半信半疑の騎士だが、あの二人の言動にそれなりの説得力を感じた事も否めない。 ――いかれた人間の戯れ言とも思えん。では、あの男もそうなのか?いや、あんな人間臭い精霊が存在するものなのか……? 考える程に軽い頭痛すら覚える。イアスは頭を振り、今は任務に集中しようと思考を切り換える事に専念した。 敵ではない者達の事など、いつまでも気にするべきではないと。 ――いや、待て……彼等が精霊だと言うのが事実ならば、この町に来た目的は何だ? 思い返せば、あの娘は彼の持つ風霊晶に語り掛けていたのだ。 ――憐れみはしないわ。それが、お前の幸福ならば……。 どうやら自分は、霊晶と化した風の精霊に愛されているらしい。だから彼女も関心を失ったのだろう。 ――幼少時から持っていたからな……この精霊は、ずっと俺の成長を見守ってきた訳か。 もし精霊の意思が憎悪や哀しみの類を抱いていたならば、彼等は自分をどうしただろうか。 娘の冷淡な碧眼と、男の鋭い一瞥を思い出し、イアスは再び得体の知れない寒気に襲われた。 マントの内側に手を差し入れ無意識に脇腹を擦っていると、背後から肩を叩かれる。 「どうした、イアス?あの二人組は何だったんだ?」 「ああ……」 現実的な同僚は、彼の言葉を信じるだろうか。僅かに思案し、イアスは今は自分の胸にのみ仕舞っておく事に決めた。 「ロイド、本隊の到着は明晩だったな」 代わりに、胸中に浮かんだ考えを提案として告げる。 「今夜中に一度、偵察を兼ねて潜入してみようと思う……闇市に」 辺りを行き交う人々に聞かれぬよう小声で呟きながら、イアスは確信していた。 彼等の目的も、恐らくは闇市にある。必ず再び見(マミ)える事になるだろうと。 状況次第で彼等が敵となるか味方となり得るのかまでは、彼にも判らなかったが。 急な申し出にロイドは驚いたが、イアスの真剣な眼差しを受け、頷きで同意する。
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