二の章

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陽が沈み、月がその明度を増す頃――レオネアの町の様相も一変する。 夜の町は一部の盛り場を除き、昼とは全く異なる静寂の中で眠っているかのように見える。 住宅街の灯りは早々に消え、道行く者は酒場帰りの酔った男達ぐらいだ。 一方で、宿泊施設や食堂を兼ねた酒場が軒を連ねる界隈は賑やかである。 少し歩くだけでも飽く事なく繰り広げられる喧騒に遭遇し、イアスは軽く眉を顰めていた。 もう一人の同僚であるディアン・マクレーンと共に、件(クダン)の神殿へと急ぐ途中なのだ。 ロイドは本隊からの通達に備え、宿で待機している。 例の二人については取り敢えず任務の妨げになる事はなさそうだと濁しておいたが、彼は納得しきれてはいない様子だった。 どうしたものかとイアスが考えていると、ディアンが人目を憚りつつ口速に話し掛けてくる。 「昼間は、神殿周辺にその手の警備らしき奴等は居なかったよ。今はどうだか判らないがね。参加者達は恐らく、裏口から出入りしている筈だ」 昼間の内に単独で動き情報を得てきた同僚の言葉に、イアスも頷く。 夜とはいえ正門は住宅街から丸見えとなる。闇に生きる者達は、とかく姿を公には曝したがらないものだろう。 「秘められた地下通路が存在する、なんて噂も聞いたが」 「そっちは神殿の中から調べてみない事には判らんさ。神官や巫女達は宿舎に戻るようだが、神官長には神殿内に自室が与えられているそうだ」 男の神官と巫女とが共に一つの神殿に仕えるというのも、享楽的な夜の神グラヅェフを祀る神殿ならではの慣習かと、イアスは苦笑する。 「で、その神官長なんだが――」 ディアンが更に声を落とした為、イアスも耳を澄ませた。 「どうもここ何代かは隠居するような富豪の爺さんばかりが、聖職者に転身しては居座っているらしい。金にものを言わせてな。露骨に怪しい話だろう?」 「成程な。曲がりなりにも神殿ならば、隠れ蓑には好都合という訳か」 小声で話しながら、騒がしい界隈を抜け出す。城壁の西門近くまで来ると進路を北へと変更した。 道なりに進み、月明かりがぼんやりと照らす黒の神殿を視界に捉えると、二人は一気に駆け出す。 靴底を軟らかくした特殊な革のブーツが、夜の静寂に響く足音も軽減してくれた。 同じ頃――。 リュビスリューラは騎士達が目指す神殿の屋根に腰を下ろし、淡い月の光を全身に浴びていた。
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