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更に眼を凝らし、いかにも強欲そうな顔付きをした商人が並べた品々を端から順に確認していく。
――よし、まだ残ってる!
鮮やかな緋色の絹布が敷かれた台の上。
その最前列に鳥の羽根を模した髪飾りが置かれているのを確認し、娘は安堵の息を漏らした。
純金製の精緻な羽根には、艶やかな漆黒の宝珠が煌めいている。
――まったく、人の物を取り上げて勝手に売り払ったりして……あんな連中の仲間で居続けるのはもう、うんざり。
仲間と呼ぶのも腹立たしい忌々しき顔触れを思い出し、少女は小さく舌打ちする。
――あれを取り戻したら、さっさとこの国を出て何処か遠い国へ行こう。
多くの若者がそうであるように、彼女も未知なる世界に焦がれて止まない。
それは、彼女を縛り付ける不遇な現状からの解放――即ち自由を激しく求める証なのだろう。
彼女は生まれた時から、レオネア近辺で暗躍している盗賊団の中で育てられて来た。母親が頭目の一人娘であったが故に。
しかし、早世した母の代わりに面倒を見てくれていた祖父も亡くなり、血縁者でもない男が頭目を継ぐと、彼女の居場所は無くなってしまった。
祖父を慕っていた団員達も、掌を返したように今では彼女を邪険に扱う。
原因はどうやら彼女の父親にあるらしいのだが……。
――母さんが惚れ込んだんだから、どんな悪党だとしてもあいつらよりはマシな筈……ダフ爺は最期まで何も教えてくれなかったけど……。
考える間も視線はテントから外さない。仮面の客は別の品を手に取り、どうやら値段の交渉を始めている。
――見付けたは良いけど、どうしよう。もっと人が集まってれば紛れ込んで掏(ス)る事も出来るけど……。
見付かれば無事では済まないだろう。それこそ人買いにでも売り飛ばされるかもしれない。
何せ此処は、闇市なのだから。
慎重に事を運ばなければと、軽く呼吸を整える。
その時ふと、テントの一番奥まった場所に置かれている『それ』が少女の眼に留まった。
――何だろ?小さな檻みたいだけど……何だか呪符みたいので覆われてて、中が見えない……。
猟が禁じられている、稀少種の動物だろうか。
しかしただの動物ならば、わざわざ多量の呪符を目隠しに使うというのも解せない。
――珍しい動物だったら、ちょっと見てみたいけれど……奥に置いてるって事は、もう買い手が決まってるのかな……。
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