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レオネアは煉瓦造りの家屋がぎっしりと建ち並ぶ、古い町だった。
中央を真っ直ぐに貫く大通りは、町の出入り口でもある城壁の東西の門へと続いている。
高く堅牢な城壁が覆う厳めしい外観からは一変して、人々の温かな活気が訪れる者を出迎えてくれるのも特徴だ。
古来より絹織物や香料等の交易で栄えて来たレオネアは、人情味に溢れる豊かな町としても名高かった。
しかし、此処には住民達にもあまり知られていない、もう一つの顔がある。
怪し気な呪い師や闇商人が集う、大陸でも随一の闇市が夜な夜な立つ町。
その闇市は公の場を避け、とある豪商の館の地下施設や、夜の神を祀る神殿の最奥部で開かれると言う。
各地の盗賊団から流れて来た盗品や密猟品を始め、現在では禁じられている魔術を記した書や、用途はともかく稀少な薬物など……曰く付きの品が数々並ぶらしい。
中でも一際注目を集め莫大な金額で取引されるのが、人でも獣でもない、精霊達だった。
生きた者から、その肉体の一部まで。
彼等が人前に姿を晒す事など滅多にないが、稀に好奇心の強い者が必要以上に人間達へ干渉してしまう事もある。
そうした精霊は格好の餌食となり、噂を聞き付けた心無い魔術師に捕われてしまう。
あるいは力量試しにと彼等の領域に踏み込んだ無頼の冒険者に捕まり、戦利品として連れ去られてしまうのだ。
その殆どが微弱な力しか持たぬ者や、世に誕生したばかりの幼い精霊らしいのだが。
そんな信じがたい話を最初に聞かされた時には、彼――イアス・ファーネルも疑念が募るばかりだった。
だが旅の剣士に成り済まし、噂話を発端とする情報を集めて行く内に、眉唾物でもないらしいと確信を持ち始める。
その確信が、イアスの中に少なからず戸惑いを生み出していた。
彼自身は、精霊を見た事はない。
しかし、精霊の魔力を結晶化させ作られるという火霊晶や風霊晶を使った、護身用の宝飾品ならば見知っている。
それらは一部の上流貴族や大富豪達が好んで身に着ける品だった。魔術師によって作られる模造品も、数多く存在するらしいのだが。
――これも、恐らくは偽物だろうな……。
今は亡き父親から贈られたマントの留め飾りに指先を置きながら、イアスは微かな苦笑を浮かべた。
透明に近い淡い青みを帯びた菱形の結晶は、風を起こす精霊の魔力その物だと聞かされている。
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