一の章

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名のある盗賊や闇商人を捕える事に成功すれば、それなりの成果は上げられる。 思いながら何気なく、眼の前に掛けられた剣へとイアスが手を伸ばした時だった。 店先の方から軽やかな靴音が鳴り響き、滑るように店内へと入って来たのは。 ――閉ざされた力を感じる……留まり続ける、白き風の音……。 多くの人間が騒がしく行き交う中を歩いていたリュビスリューラは、それを感知するなり立ち止まる。 彼女の華奢な腕よりかはずっと頼もしい腕に縋り付きながら歩いていた氷の娘は、感覚を研ぎ澄ませ力の源を探り始めた。 砕いた煉瓦を敷き詰め石灰で固めた路上の一隅に、冷たい沈黙が降りる。 つられて足を止めたギルアードも、硬い表情で周囲を窺う妻の様子に、普段は遥かな天上へと預けているその力を僅かばかり喚び寄せた。 鋭利に細められた黒瞳に一筋、淡い月の金色が走る。 そうして彼も、自由なる世界から隔絶された風を感じ取る。 そこに宿る意思までも読み取り、彼はそのまま素通りしようとしたが、リュビスは風の音を追うように彼の腕から離れてしまう。 ――必要以上に関わるなと、言い含めた筈なんだがな……。 軽く溜め息を吐きながら、彼は遠ざかる妻の背中を見詰めた。 リュビスは水面に跳ねる魚のごとく軽やかに人混みの中を擦り抜けると、鋭く研がれた長鎗の並ぶ武具屋へと入って行く。 揺れる白い毛皮のマントは殊のほか目立ち人目を引くが、それが却って人を寄せ付けさせないようだ。 気高き魂を宿していた白狼に感謝の念を抱きながら、ギルアードも後に続いた。 鉄や銅の精錬により火元素の残滓が纏わり付いた武具が所狭しと並ぶ店には、氷精の彼女が嫌う炎の気配が濃く漂っている。 それでも風の気配を捜す内に、リュビスは一人の青年に眼を留めていた。 正確には、彼の右肩で淡い光を放っている結晶に。 一方でイアスも、純白の毛皮を羽織った何処か異質な空気を放つ娘の視線に気付く。商品へと伸ばしていた手を下ろすと、相手を観察するように見詰め返した。 「やあ、御嬢さん。こいつに何か用かな?」 ロイドがおどけた口調で声を掛けたが、その眼光は油断なく娘を見定めようとしていた。 うら若き少女であろうが、任務に支障を齎すような存在であれば見過ごせない。 そんな同僚の意志を読み取り、イアスも内心で警戒しつつ穏やかな口調で訊ねる。 「この剣が欲しいのかい?君の腕には重そうだが」
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