10年目

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名前を呼んでみたが掛ける言葉がみつからない。 どうしていいのかわからないまま椎名さんの前に立ち止まり、見下ろした。 「これ、君にあげるよ。自分のお店のケーキなんて食べ飽きてるかもしれないけど、ホールのケーキは、一人では食べ切れないから」 行き場をなくしたケーキを悲しそうに見つめる姿は、私の胸まで痛くなる。 「でしたら、私の家で食べませんか?すぐそこなんで」 「でも、」 「彼氏もいませんし」 強引に腕を引っ張り掴むと、抵抗もなく簡単に立ち上がった。 遊具と同じだけ椎名さんの肩にも雪が積もっている。 それは、長時間此処にいた証拠で、現にコートは冷えきっていて濡れていた。 右手にケーキ、左腕に椎名さん。 私は、急ぎ足で家に向かった。 「家まで送るだけだから。夜道は危ないし」 私に引っ張られながら尚も、椎名さんはそう口にする。
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