10年目

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「は……い?」 「あッ、えっと……椎名秀翔さんでしょうか?」 「え!?あ、はい、そうですけど」 「あのッ、サッカーの、」 「えぇ。覚えてくれている方がいたとは、光栄です」 忘れるはずがない。 命の恩人だもの。 会いたくてたまらなかったリストバンドの人だもの。 あの日、あの時のことを謝ろうと口を開きかけた時、 「すいません、このケーキ下さい!」 新たなお客さんの声でそれも出来なくなり、気づいた時には、椎名さんの姿は消えていた。 椎名さんに会えた! ……が、嬉しいと素直に喜ぶことは出来ない。 振り返った時、気づいてしまったのだ。 ビジネスバッグと一緒に持っていた男の子の戦隊ものの玩具の入った袋。 ケーキに玩具ときたら結婚していることくらい容易に想像がつく。 そうだよね。結婚していたっておかしくない年齢だもの。
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