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「誇れ」
「……?」
歯切れ悪く俯くようにして放たれた『征服魔女』の言葉に、間髪入れずに来た声。
本当に自分のやっている行為は正しいのか――無益な殺戮に、荷担しているだけではないのか。
そんな迷いを打ち消すように放たれた声に、驚きを隠せない『征服魔女』。
「お前の行動が、仮に他のSランカーに漏れたとして……『狂虫王者』辺りは既に知っているだろうが……それを批難されたとする。だが、お前が今日汚した掌は、未来への礎だ。この業績は、今しか生きぬ豚の為のものではない」
「…………口では簡単に言える」
「無論。そして意味のない言葉だ。俺の言葉が今のお前にとって詭弁にしか聞こえぬように、お前のその重圧は未来に生きるであろうこの国の人間には、全く関係のないものだからな。故に、誇れ。その関係のない未来の礎は、お前が今日築いたのだと」
――全く関係のない幸福を創る事は、他のSランカーには決して真似出来ないだろうよ。
そう言い残し、真紅の欠片から紡がれた声音には無音が訪れる。数秒後、僅かに肩の力を抜いた『征服魔女』の背後から、また別の声音が。
「お仕事御苦労様だねぇ」
振り返るまでもない。
独特の軽い口調と、染み付いた煙管の臭い。
『征服魔女』は振り返らないまま、背後の気配へと声を投げ掛ける。
「……『銃星』」
「いやぁ、今日は本当に疲れたよ。俺っちは世界の終わりだと思ったねぇ……禍々しい星は落ちてくるわ、スタージャは吹き飛ぶわ……『鬼神』は死ぬわで、さ」
「…………」
「しかも、上の三人ときたら、この国ほったらかしで……別世界に飛ぶときたもんだ。これで神とかが現れたら、どうするつもりだったんだろうね」
軽い調子で紡がれた言葉だが、『征服魔女』は知っている。この男が、本当はそんな事を欠片も思っていない事を。
いや、確かに制御不能の星が墜落してきた時は、流石の彼も肝を冷やしただろう。
だが、残りの議題については――全く心配の必要すらないのだ。
この世界に残った一人――ライト・フォーリス。彼女一人で、神がどれだけ現れようと意味がない。
更に、もう一人。
死んだ筈の一人。最期のピースを埋めるあの男が目を覚ました今、この話を出す意味すらない。
ならば――
――コイツは、私を慰める為に来たんだろうね……。
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