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"魔力"が込められた右足は、鍵がかかったままの鉄製の扉を吹き飛ばす。そのせいで扉の前にいた少年の安眠を妨害する悪魔は、顔面を強かに打ち付けた。
「い、いたぃ……ぃたぃよぉ……うぇぇ」
少年にラルロスと呼ばれた少女は、顔を押さえながら大粒の涙を零している。歯や鼻は幸いにも折れていなかったが、仁王立ちする少年はそんな事は気にしない。
「てめぇ……なんのつもりで俺の眠りを妨げてるんだ? こ、ろ、す、ぞ?」
「……ぃたいよぉ。いたぃのにぃ……何でガルは酷い事しか言わないの?」
「もう一回言う。こ、ろ、す、ぞ?」
「そこッ?」
ツッコミの要領で抗議する長身の女性──ラルロスの言葉を無視し、少年は瞳に殺意を灯す。子どもが放つとは思えない、氷の刃のような覇気だ。
「あぁ、そこだ。懺悔しろ後悔しろ死に絶えろ。化けて出てきてもいいが、その時は殺され足りなかったという事で、もう一度俺に殺されろ」
瞬間、ヒュッと風を切る音が少女の耳に。何かが自身の隣を通り過ぎたと感じた時には、真横の壁に一本の投げナイフが突き刺さっていた。
悲鳴をあげる事も出来ず、身体をガチガチに固めるラルロス。パラリと、自慢の藍色の髪が数本落ちたのも気付いていない。
「さて、本気で何しに起こしに来たんだ? 俺とお前の付き合いも長い。遺言くらいは聞いてやりたいんだ」
「ゆ、遺言? つ、遂に、私の膜がガルに破られるの? さようなら、少女だった私……こんにちは、大人のワタシ……」
「…………」
無言で少年は投げナイフを壁から抜き、ラルロスの首へと添える。次にくだらない冗談を言えば、喉笛が切り裂かれてしまう。そう感じさせる目つきだった。
「コロスゾ」
「お、怒らないでよ。ちゃんと言うから!! ガルとデートしたかっただけ……アレ?」
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