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陰鬱な光が少年──ガルの瞳を覆ったのを見て、身の危険を感じたラルロス。故に、少女は建て前で考えていた理由を全てすっ飛ばし、勢いよく本音をぶちまけた。 その愚行に気付いたのは、数瞬後。少女は口をパクパクと開閉させ、顔を真っ赤にして恥ずかしげに俯いてしまう。 「…………も、も、もう一回!! 今の無し!! ガルは今の言葉を全部忘れて、また熟睡して、私が扉を叩く。そこからまた始めるからね!!」 とてつもなく身勝手な言葉を吐いてから、ラルロスは深呼吸をする為に背中を向けた。丁度高台に位置するこの家から見る景色は、人の心を癒すのにも打ってつけなのだ。 「スーハー、スーハー、スーハー!! よし、これで大丈夫!! さぁ、本番と…………ガル?」 彼女が振り向いた先には、人影一つ無い。乱暴にハマっただけの鉄製の扉は、入ってくるなという雰囲気をドロドロしく醸している。 だが、室内に人の気配はない。完全に置いてけぼりを喰らった少女は、心底不思議そうな顔で辺りを見渡し────とんでもない結論を口にした。 「……ハッ!! もしかして、照れ隠し? ガル……ちっちゃな頃から変わってないのね」 藍色の髪の少女はぷすー、と鼻息を漏らす。十中八九、ガルという少年が呆れてどこかに消えただけだろう。しかし、ラルロスの頭は残念な事にその考えに至らなかった。 「むぅ……ぅう……。せっかくこんな美少女が誘ってるのに、逃げ出すのは駄目なんじゃなくてー?」 むっくりと頬を膨らませた自称美少女。それは決して間違ってはないのだが、彼女が自分の言葉に赤面するのは数秒後。 ◆◆◆ ──……まだ六時じゃねぇか。昔からだが、アイツ"こそ"脳みそ湧いてるぞ。 財布もないまま地下街の裏道を歩む少年がいた。平凡そうな顔つきに、ボサボサの黒髪を持つ男だ。 背丈は、恐らく迷惑女よりも少し低いくらい。要するに、170を超えているという事はないのだ。 そんな線の細い少年が、早朝から落書きだらけの裏路地を通ること自体危険である。だが、少年──ガル・バゾルは気にした様子もなく悠然と歩みを進めていた。
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