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私は長谷部さんの姿が見えなくなっても暫く、その残像を追ってしまった。
「もう大丈夫のつもりだったのにな……」
朝から必死に我慢していたのに目頭が熱くなって、涙がうっすらと溜まりだす。
目を瞑り大きく息を吸い込み気持ちを落ち着ける。
「よし!準備しとこ」
気のせいかもしれないが幾分か気持ちは落ち着くのを感じ、やや気合いを入れつつ気持ちを切り替える。
「あれ?ソレって長谷部さんに頼まれたやつ?」
食器棚から人数分のコーヒーカップを出していると、あまりの量に驚き気味に妙子さんが覗き込んできた。
「あ、はい。今のうちにちょっと準備しておこうと思って……」
手は止めず、妙子さんにチラチラと視線を配りながら答えていると
「手伝うわ。1人じゃ大変でしょ?」
引き出しからフィルターと人数分のスプーンを出してくれた。
いつもの私なら素直に喜んで手伝ってもらうところだけど、今日は……
今日だけは1人で最後までしたかった。
だってこうやって長谷部さんに頼まれることも、コーヒーを淹れることも今日で最後だったから……
「ありがとうございます。でも大丈夫です。打ち合わせの聞いたって事は妙子さんも何か頼まれたんじゃないんですか?」
「あ、うん。じゃあ、お願いね」
私の珍しい反応に妙子さんは不思議そうに首を傾げ、戸惑い気味に答えるとゆっくりと給湯室を出て行った。
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