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話を切り出してきたのは長谷部さんではなく奥さんの方だったらしい。
娘さんの将来の事を考えて、との事だったが一番の理由は”私”だった。
隠れて会っていたにしろ、普通に二人肩を並べて度々出かけていたのだから、今まで知り合いに出会わなかったのが不思議なくらいだった。
偶然、長谷部さんと居るところを奥さんの友人に見られてしまったらしいのだ。
多分、奥さんも長谷部さんと別れる気なんてなかったし、ただ歩み寄るタイミングがみつからなかっただけ。
それが私とのことを知ったことで、また時計が動き出したんだと思う。
申し訳なさそうに何度も何度も謝る長谷部さんに私は「気にしないで」と一言だけ言った。
本当は「お幸せに」と言うべきだったのかもしれないが、私が言ったら嫌味に聞こえてしまいそうだったから止めておいた。
「長谷部さんとこの子供って、もうそんなに大きいの?でも、そっか……、そんなものか」
指折り数えながら一人で納得する妙子さんを横目に私はソッと給湯室を後にした。
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