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「長谷部さんとの事、後悔なんてしてません。大切なものをたくさんもらいました」
あの日に言えなかった言葉をひとつひとつ長谷部さんに伝えてゆく。
「でも……」
「一つだけ、最後にお願いがあるんですけど……。最後にもう一度だけ抱きしめてくれませんか?」
私の言葉に長谷部さんが動揺の色を滲ませる。
こんなお願いをされて長谷部さんが困らないはずがないと分かっていたが、最後にどうしても長谷部さんの温もりを感じたかった。
でも、ここは会社で……
そんなこと容易にできる場所じゃないってことも分かっていた。
「すみません、嘘です。忘れて……」
軽く笑い流そうとした瞬間、鼻孔によく知った匂いがかすめたかと思うと同時に自分とは違う体温に包まれていた。
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