92人が本棚に入れています
本棚に追加
―――涙が出そうになった……
でも何とか堪え、気持ちを落ち着ける。
そして長谷部さんの体温を記憶に刻み込み、私はゆっくりと長谷部さんから離れた。
「さようなら。幸せな家庭を築いてくださいね」
笑顔とまではいかなかったが、何とか笑って言うことができた。
「ありがとう」
心なしか寂しそうにも見えた、その表情に気づかないフリをして私は先に会議室を後にした。
最後に、この子に父親の温もりを感じさせてあげることもできた。
―――もう思い残すことなんてない。
そして私は会社を去った。
いらない、と言っておいた花束を抱えながら……
.
最初のコメントを投稿しよう!