忘れていた記憶

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「だって雅人から借りた漫画が面白くて……」 言葉途中に私の顔を見てヤバいと言った感じで口を押える。 「また借りた漫画読んでたの?夜更かしばかりするんだったら漫画禁止にするって言ったわよね」 「あ、ヤバい。遅刻する!言ってきます」 睨む私から目を逸らし、誤魔化すように時計を見るとテーブルの上にあったパンを手に、逃げるように玄関へと走り抜けて行った。 「こら!待ちなさい」 慌てて追いかけるも、足の速い那智はすでにアパートの階段を駆け下りた後で、こっちに向かって手を振っていた。 「もう……」 窓から那智の後姿を追い、悔しげに言葉を漏らす。 それにしても可笑しなものだ。 あんなに小さかった那智が、もう少しで私の身長を追い越しそうなくらい成長しているなんて……。 そして時折見せる顔が長谷部さんに似ているのは、やっぱり親子だからだろうか。 那智が大きくなり手がかからなくなってきて寂しいのか、最近、長谷部さんの事を思い出してしまう。 .
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