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実際にその絵を、もう一度あらためて見てみることにした。
キャンパスの中で様々な色が暴れ回っている。
あいつが白地にぶつけた「衝動」。何度も何度もぶつけた「衝動」。隙間のない「衝動」。実体のないものが形を成そうともがき苦しんでいる。
「なんだこれは」
少し声に出てしまったかもしれない。「先生」の中の一人がこちらを見た気がした。
率直な感想。ただ、私にとっての正解。分かるわけがない。あいつがもし、それを見たらきっと言う。
「ナンダコレハ」
あいつは笑う、そして嘆く。自分の生み出した芸術に向かって。
でも、それはありえないできごと。あいつがその芸術を見ることはないのだから。
あいつはあたしよりずっと年下で、今もまだ少年と呼ばれる部類に入る。それ故の苦悩からか、ハタからみたらおかしなやつ、変人だ。
あたしのような。
だからあたしはあいつを……。
「美月……」
由実の声で我に帰った。
「大丈夫?」
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