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気がつくと体が震えていた。震えている手を顔の前で握り締める。
「ふっ……」
笑えてきた。
今日もただ一日の日常と、そう思ってここに来たはずなのに。
「やっぱりアンタも人の子だよね……」
由実の言うことの意味が分からなかった。ただ、あたしを気遣ってくれていることは分かった。
「近すぎるといろんなことが見えちゃうよね。でも、遠いところから本当に好きだと思ってくれる人がきっといる」
「愛してくれる人へたどり着くための布石、か……」
だけど、それは絵ですらない模様。どこにもたどり着かない。
どんなに訴えても届かない本質。存在しないから。
でも、探し求める。それに惹かれた人はきっと不幸だ。
「綺麗なら、それでいいのに。なんで見えないものまで見ようとするんだろう?」
止まらない思い。いや、愚痴か。
「本当は何も隠れてない。隠れているのは生きている人間の卑しさだけ。それでいいはずなのに」
並木道の汚れた排水溝や川縁のゴミを切り取った風景画。たとえモナリザが悪女でも疑問を持たないのに、カタチの崩れた色の混沌から何を読み取ろうというのか。
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