第1話

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 あいつに出会ったのはいつのことだったか。自殺志願者が精神安定剤をもらいに来ることもあまり珍しくはない。 その中で当時あいつは中学生だった。だからぼんやりと記憶に残っている。  あたしはいつも通り処方箋を一瞥し、事務的に薬を渡したハズだ。そのときそいつはオロオロした母親の陰で薄く笑っていた気がする。  数日後、今度はあたしを指名してきた。そいつは一人で来ていた。  それほど気にすることなく業務をこなす。 「お姉さん、僕の気持ち分かる?」  ぶっ飛ばそうかと思った。 『知るか!』  言えるわけのない言葉を飲み込む。 「気持ちをしっかり持って。お大事に」  私の言える社交辞令の限界を放った。 「なんだ、結局アンタも同じか……!」 「そうだよ」  しまった。  声に出ていた。一瞬、そいつの動きが止まった。キョトンとするというのはこういうことを言うのだろう。
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