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「何か用か?」
「っあ…あのファンなんです。握手だけでも良いので、お願いします」
消え入りそうな精一杯な声だった。同時に手を差し出され
「っは?」
翔は呆気に取られ、仕方なしに手を伸ばし重ねる。背後で冷やかす声が聞こえたが、興味なく聞き流した
以前なら無視して何事もなく机に突っ伏していただろう
思えば、自分自身の変化に誰よりも一番驚いていた。一夏で変われば変わるものだと周囲は言い、棘々しかった態度は、冷たいが以前よりも軟かく、返ってくる反応は良かった
手に温かい感触を残して、翔はそっけなく踵を返し、机に頭を垂らす。教室の入り口の方では、なにやら騒がしく、はしゃいだ声がしていた。何もかも、やる気がなかった。日常がブラウン管の中で映し出される映像やスピーカーから放たれる音の様に感じられ、糸の切れたマリオネットのように脱力していた
「っよ!またかよ。付き合ってる人いないんだろ?今の人も可愛かったじゃん!誰か一人くらい付き合っても良いんじゃないか?その気がなかったら一人くらい紹介してくれよ」
翔は、掌を振り拓也を追い払う様にする。それでも、しつっこい程に話し掛けて来る、正直うんざりし始める
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