枯れ果てています。

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   いつもの帰り道、町内に入ったあたりで俺はまたロードレーサーを押して歩くことにしている。なぜなら、歩いていた方が何かと楽だからだ。 「あらー! 仁志くん、今帰り? 遅かったのね」  俺は、気軽に声をかけてきた近所の中田さんの奥さんに、ぺこりと頭を下げた。  ……俺は何かと、近所の奥様方の話題の種になりつつあるらしい、から。  流華さんの部屋に寄っていたから、今日は確かに帰りが遅かった。俺の普段の帰宅時間ですら、ここらへんの主婦は把握している。  時間とエネルギーを持て余した(なんて言ったら失礼だけど)奥様方を変に刺激しても面倒なだけだし。愛想良くして適度に話題を提供していれば、必要以上干渉して来ない。  受け入れる情報にも限度のある奥様方にはこれでいいと、経験から学んだことだ。 「あ、そうそう仁志くん。聞いた? 今井さんちの……」  ほとんどが俺には必要ないものだけど、周りの話を聞きもしないのに教えてくれたりするし。  人の話を聞くのは苦にならないし、聞きたくなければ適当に切り上げて帰ってくればいい。我ながら、要領が良すぎて可愛くないな、と思うけど。  まあ、ロードレーサーで愛想なく駆け抜けて無視するよりは生きやすいと言うか、そんな感じだ。  群れた女の人達が怖いのは、いつの時代もたぶん同じだと思うから。  ……まあ、単体でも何となく怖いものだけど。何を考えているのか理解できない分。 .
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