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アンと一緒に薄暗くなってきたいつもの道をゆっくりと歩きながら、俺はふと足を止めた。
カキン……とバットがボールを打つ音がする。野球用のグラウンドが併設された公園の方からだ。この音を聴くたびに、けたたましい蝉の鳴く声を一緒に思い出す。
少年野球チームにいた頃の記憶といえば、ひたすら夏だった。
その他の季節だってずっと練習はしていたけれど、やっぱり野球の季節と言えば夏だと思ってしまう。
アンが気まぐれにそちらへ向かって歩き出すものだから、俺も何となくそれに従った。
野球チームの監督は、俺が小学生だった頃から変わっていない。たまには挨拶してくるのも悪くないかな、なんて思って。
道路に面したアスファルトの歩道を歩いていると、後ろからクラクションが鳴らされる。
驚いてその場でクルクル回り出したアンの頭を撫でながら振り返ると、黒のエクストレイルがゆっくりと寄せられた。
「よ。やっぱり、お前か」
助手席から覗いたその顔を見て、俺は肩を竦める。
額田政利──うちの高校の養護教諭だ。額田先生は、愛美さんの友達である伊藤佐奈さんの義理の兄であり、恋人。
俺は愛美さんと別れてからは会ってないけど、このひとは佐奈さんを通して変わらず関わりがあるはずだ。
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