まるで鏡を見ているようだ。

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   照明が、暗くなる。ライブが始まる合図だ。考えるより先に、流華さんの手を取っていた。 「──……」  逃げられないよう下から覗き込むようにして、流華さんの口唇に自分の口唇を押し付けた。このひとが拒むとは思えなかったけど。  だって、このひとは額田先生のことが好きなくせして、俺とキスするのは嫌いじゃない。  根拠のない自信といえばそうなんだろう。けど、俺だってそうだ。  愛美さんのことを考えたら眠れなくなるくせして、俺が自分を見ていないことに不機嫌になる流華さんの口唇が欲しくなる。  流華さんは一瞬驚いて、固まった。けれど、すぐにその緊張はほどけていった。力の抜けたその手を引いて、そっと流華さんを抱き寄せる。  体勢を変えるとき、カウンターの中の店員と目が合った。けど、店員はすぐに見ないふりを決め込んでくれる。よくあることなんだろう。  爆音が轟いて、いかにもクラブミュージック、という曲が流れ出した。ライブハウスは既にステージ以外真っ暗で、カウンターの足元の間接照明くらいしか明かりはない。  誰も俺達なんて、見てなかった。 .
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