早い話が、動けない。

3/14
前へ
/32ページ
次へ
   日本中のあらゆる男の為の笑顔や痴態、というのは、興奮する以前に面白くなかった。反応くらいはできるけど。  自分だけに向けられていないと意味がない──とすぐにそう思ってしまう。  こういうのも性癖なんだろうな。口に出しては、言えないけど。 「なーなー、坂田。お前も少しは参加しろよ」  女のようにしなを作りながら、斉木が俺の腕をつつ……と指先でなぞった。 「何、気持ち悪い」 「坂田は、髪の長い女が好きだよな。ま、俺もそうだけど」  何をどう観察して言っているのかは判らないが、さりげなく言いながら斉木はぺらぺらとページをめくり出す。 「別に、その人に似合ってれば何だっていいけど」 「いいや、坂田は絶対髪が長くないと駄目だと俺は見てる。ショートカットの女に勃ったこと、あるのかよ」 「……うーん……言われてみれば、覚えがない」  ホラ見ろ、と斉木は得意げにニヤニヤと笑った。 .
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

384人が本棚に入れています
本棚に追加