早い話が、動けない。

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  「いやだ仁志ちゃん、そこは触らない約束でしょ~」  斉木のオネエ口調にげんなりしながら、俺はさりげなくもう一度その広告を見た。  ……マグロならマグロでいいけど、声を上げたり暴れたりするまで弄り倒したい、とか思う俺はやっぱり獣な気がする。  やめた。真っ昼間から深く突き詰めて考えるようなことじゃない。あったかくなりそうだった頭をクールダウンさせたくて、ふと外の景色に目をやる。  と、そこで俺の思考は一気に凍り付いた。  ……翠川愛美が、男と歩いているのが見えたからだ。  春のようだった頭の中が、一気に冬になっていた。愛美さんの隣にいた男は、いかにもガテン系の男。  陽に焼けてそうなったのか、明るい髪は傷んでいたけど、いかにも女が飛びつきそうな顔だった。少し甘めでニヤけた感じはするけど、美形は美形。  笑顔をかわしているわけではなかった。何か真面目な話をしながら歩いているような雰囲気。  恋人ではないのは明らかだ。2人の間には微妙なパーソナルスペースのぶんだけ間があった。気を許した人間しかその中に入れない、というアレだ。お互いに気を遣いながら歩いてるように見えた。 .
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