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けど、訳ありな関係なんだろう、というのはすぐに判った。ダテに半年も愛美さんの隣にいたわけじゃない。
……愛美さんと関係のあった男……?
そう過ぎった瞬間、口の中に痛みが走る。どうやら無意識に、口の中を噛んでしまっていたようだ。軽く切ったらしく、じんわりと鉄の味が広がる。
「坂田?」
不審そうに斉木が覗き込んできて、ハッと我に返る。
……そうだ。俺は高校生で、あのひとは女子大生。もう生きてる場所が違う。俺達は、別れたんだ。愛美さんは、俺と世界を共有することを許してくれなかった。
半ば恨み言のようなことを頭の中で繰り返して、でも。
愛美さんが別れたい、と言ったとき、俺は嫌だと言わなかった。
言えなかったのかも知れない自分がいることを、俺は判っていた。だけどそこには、あえて蓋をしてしまったんだ。情けなかったから。
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