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季節のせいか、少しずつ陽が落ちる時間が早くなってくる。
流華さんの部屋に行ってばかりだから、この頃はアンの散歩も遅くなりがちで。
彼女の匂いを付けて帰ってくる俺にもすっかり慣れたのか、アンも不機嫌そうな顔を見せなくなってきた。
……夏の間もかなり頻繁に流華さんと会ってたから、無理もないか。
遠くの空に昇り始めた、白い月を見上げる。さわさわと街路樹を揺らす風は、もう冷たいくらいだ。静かな道路に、アンの爪がアスファルトを鳴らす音が響いている。あとは俺の靴の低い音。
すると暗がりの中、カラカラと音が響いてくる。音が近付いてくるに従って、子どもの姿がうっすらと見えてきた。ユニフォーム姿の、涼太くんだ。
「今、帰り?」
アンを見て一瞬ギクッとした涼太くんは、俺を確認するとホッと息をついた。
「何だ、兄ちゃんか。びっくりさせんなよ」
掠れた少年の声に、違和感をおぼえる。
やがて街灯の下に現れた涼太くんの姿を見て、俺は驚いた。
「どうしたの、その格好」
「……わるもの退治」
「悪者?」
カラカラ……とバットを引きずってくる涼太くんのユニフォームは、泥だらけだった。大した怪我ではなさそうだけど、ところどころ血も滲んでいる。
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