拭えないものってあるんだよ。

2/11
316人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
   季節のせいか、少しずつ陽が落ちる時間が早くなってくる。  流華さんの部屋に行ってばかりだから、この頃はアンの散歩も遅くなりがちで。  彼女の匂いを付けて帰ってくる俺にもすっかり慣れたのか、アンも不機嫌そうな顔を見せなくなってきた。  ……夏の間もかなり頻繁に流華さんと会ってたから、無理もないか。  遠くの空に昇り始めた、白い月を見上げる。さわさわと街路樹を揺らす風は、もう冷たいくらいだ。静かな道路に、アンの爪がアスファルトを鳴らす音が響いている。あとは俺の靴の低い音。  すると暗がりの中、カラカラと音が響いてくる。音が近付いてくるに従って、子どもの姿がうっすらと見えてきた。ユニフォーム姿の、涼太くんだ。 「今、帰り?」  アンを見て一瞬ギクッとした涼太くんは、俺を確認するとホッと息をついた。 「何だ、兄ちゃんか。びっくりさせんなよ」  掠れた少年の声に、違和感をおぼえる。  やがて街灯の下に現れた涼太くんの姿を見て、俺は驚いた。 「どうしたの、その格好」 「……わるもの退治」 「悪者?」  カラカラ……とバットを引きずってくる涼太くんのユニフォームは、泥だらけだった。大した怪我ではなさそうだけど、ところどころ血も滲んでいる。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!