拭えないものってあるんだよ。

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   すぐそばまでやってきて足を止めた涼太くんの手に、アンが気遣うように額をすり付けた。  涼太くんは無表情で、そのままアンの頭を撫でてくれる。 「朱音っていう近所のガキ、いじめたヤツらがいて……仕返しに行ってた」 「やっつけてきたの? バット持って?」  涼太くんは、軽く口を尖らせる。 「バットは、ただのおどし。こんなので殴ったら、死んじゃうだろ」  とりあえずそれを聞いて、ホッとした。  まあ、バットなんか使ってたら、涼太くんはこんなに怪我してないだろうけど。  涼太くんは大きな溜め息をつくと、ガードレールにそのままもたれる。 「昔から、朱音んとこのおばさんには、娘をよろしく、って言われてて……だからってわけじゃないけど」 「ふうん。かっこいいじゃないか」 「けど、今日の練習サボッて行ったし。今頃、母さんにばれてる頃なんだ」  要するに、帰りづらい、というわけか。真面目で正義感の強いこの後輩を、俺は可愛らしく思った。 「おいで、涼太くん」 「え?」 「あんまり怒られないように、送っていってあげるよ」  涼太くんは恥ずかしそうに口を尖らせると、バットを持って立ち上がる。妙に素直なところが、また可愛らしい。  引きずっていたバットを肩に担いで、涼太くんは歩き出した。 .
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