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「ええ……難しいぞ、それ……自分のことなんて考えたことないし……」
「はは、そうかもね。でも、朱音ちゃんって子がいじめられてるのを見て黙ってられなかったこととか、そういうことなんじゃないの? 殴り合いは感心しないけど、女の子をいじめるヤツよりは何倍もいいと思う。個人的にはね」
「……それ、母さんに言ってくれる? 朱音がどうのこうの、ってのはナシで」
「いいよ」
涼太くんがとりあえずホッとした顔をすると、後ろから自転車が走ってきた。監督だった。
練習に出て来ない涼太くんを心配してこの辺りを探していたという監督。
監督と話をしながら一緒に涼太くんを送り届けると、その玄関先には既に彼のお母さんと、小さな女の子が待っていた。
ははあ、これが朱音ちゃんか。
自分が泣いたせいで涼太くんがバットを持って駆け出して行ってしまった、と朱音ちゃんが彼のお母さんに訴えていたところらしく、俺が擁護するまでもなかったようだ。
朱音ちゃんが泣き腫らした大きな目で俺を見上げてきて、その小さくて可愛い頭を何となく撫でてから、アンとゆっくり家に帰った。
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