どこにも証拠なんてない。

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   すると流華さんは、ペタペタと歩いてきて、そのままベランダに下りる。  足が汚れる……と言おうとしたら、流華さんは俺の足の間に無理やり腰を下ろした。  基本的に流華さんは、甘え上手なひとなのだと思う。こちらが拒否しないと判っていて、しばしばこういうことをする。  何というか、いつもだったら自分からお願いしたいくらいの状況だけども。  腰を引いて退こうとしたら、流華さんは俺の両腕をぐっと掴んで、自分の前に引っ張っていく。  ……これは、今の俺がいつもと違うということを悟られてるようだ。  なら、無理に取り繕うこともないのかな、と溜め息が零れた。 「今吸ってるの、そのままちょうだい。朝の一服」 「え? あ、うん。はい」  火種が流華さんに危害を加えないように、遠回りさせて口元に煙草を運ぶと、彼女はそれを上手に咥えた。  咥えたまま吸って、器用に煙を吐き出す流華さんを見ながら、俺は彼女が何を言い出すのかと、それを待った。  ……こういうのは、未練なんだと思う。  流華さんが俺と寝たいならもう会わない……なんて決めてきたくせに、彼女がそんなことを言い出さないように、と願っている自分がいる。 .
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