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頭と心が、見事に全然一致していない。残念ながら、こんなのは思春期に限ったことではないんだろうけど。
一服を済ませた流華さんは、俺の両腕に包まれたまま煙草を灰皿に落とした。火種を潰さなかったから、煙と匂いがふわふわと漂う。
「……仁志くん、あたしのこと嫌い?」
「いや。そんなはずないけど」
俺の妙な答えに、流華さんはふふっと笑った。
「そうだよね。仁志くん、関心のない人には冷たそうだし」
「冷たそう、じゃなくて……冷たいよ、実際」
あはは、と流華さんは声を出して笑った。
澄んだ朝の空気にその笑い声が響きそうになって、流華さんは自分で自分の口を手で覆った。それでも、まだクスクスと笑っている。
「普通、それは否定するところでしょ」
「つまらない嘘は、大事なときに信頼してもらえなくなるから、つかないことにしてる」
「馬鹿ねえ。こういうのは嘘じゃなくて、建前とか方便って言うの」
「空気なら読めるけど、今は必要ないと思う」
すると流華さんは俺に身体を預けながら、それもそうか、と呟いた。
「ねえ」
「うん?」
流華さんは俺を振り返ることなく、前を向いたまま続ける。
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