どこにも証拠なんてない。

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  「……でも、仁志くんはもう中学生じゃないよ?」 「うん」 「お父さんに言われたことが、そんなにショック?」 「そりゃあね」 「仁志くんのこと欲しいって思うあたしの気持ちは、どうしたらいい?」  思わず、流華さんを見下ろした。彼女の大きな瞳が、真っすぐに俺を見上げてくる。 「……困るよ」 「あたしも、困る」 「どうして」 「あたしは、ただ男と寝たいわけじゃないもの。何にも飾ったり取り繕ったりしないで、抱き合いたいだけ──仁志くんと」  グラグラ、心が揺れる。  話せば、流華さんがそういうふうに言い出すんだろうってことは、判っていた。それくらい、判ってる。少なくともそれくらいの気持ちを持って、流華さんと一緒にいる。  ……だからこそ、辛い。  ベランダの手すりにぱたぱたと打ちつけられる雨音が、心地いい。生暖かい風が吹き抜けて、俺と流華さんは身を竦めた。  中、入ろうか……と掠れた流華さんの声に従って、俺はその場に立ち上がる。 .
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