どこにも証拠なんてない。

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   カーテンをゆっくりと閉める流華さんの背を、じっと見つめた。目の前の身体を後ろから抱いて、窓に押し付けたい。心の中に渦巻いているこの熱情がふつり、と途切れて虚しくなるまで、走り抜けてしまいたい。  だけど。俺は、それを望む感情がもう恋だと知っているから──なおさら、そんなことをしてはいけない。 「……あんまりあたしを、なめないでよね」  ペールグリーンのカーディガンが、流華さんの肩からハラリと落ちる。  夏と同じキャミソール姿の流華さんに、俺は思わず後ずさった。  ……だって、いつもはブラしてるくせに……何で今日に限って、してないんだよ……。  思わず口を押さえて、俯いた。あんなもの直視なんてしたら、本気で自制が利かなくなる。けど流華さんは、俺の胸の内などおかまいなしにずずい、と寄ってきた。 「あたしは仁志くんの家庭教師じゃない。この部屋だって、あなたの親が覗きに来るような部屋じゃない。あたしの部屋だわ。何をしたって、証拠なんて出てきやしない」 「……そういう問題じゃないんだよ」 「そういう問題よ。あなた、自分で言ったじゃない。さなえさんに遊ばれてたとは思ってない、って」 .
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