どこにも証拠なんてない。

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   ガチャン、とお尻に何かぶつかって、びっくりした。いつの間にかキッチンのシンクの前まで追い詰められている。  流華さんの綺麗な目が、怖いくらい澄んで、真っすぐに俺を射抜いていた。 「……女にだって、何を奪われてもいいからしたいことはあるの。あたしにとっては、今、仁志くんと抱き合うことがそう。今まで出会った誰より、あたしは仁志くんが欲しい」  腰から力が抜けて、俺はズルズル……とその場に座り込む。  ……違う意味で、流華さんの顔を見られない。  流華さんはゆっくりとしゃがんで、手を伸ばす。その手を振り払うこともきっとできたけど、何故か動けなかった。ベルトが引き抜かれる。 「……あの、流華さん……俺の話、聞いてた……?」 「聞いてた。抵抗したいなら、すればいいわ。そうしたら、少しは被害者らしくなれるでしょう」 「……ひどいこと言うね」 「聞き分けのない子には、おしおきしないと」  やたら甘い声でささやくと、流華さんは躊躇うことなく顔を寄せた。 .
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