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「ああ、いいの。どうせ文化祭までの繋ぎだから」
また非常階段に俺を連れてきた長倉さんに彼氏のことを訊ねると、そんな答えが返ってきて、俺は苦笑する。
「フットワークの軽いことで。俺には真似できない」
「だって、坂田くんが相手にしてくれないからじゃん。あたしだって、彼氏いないのが続くの我慢できないし」
果たしてそこに愛はあるのか、と訊いてみてやりたかったけど、ならそれをくれ、と言われそうな気がして口をつぐんだ。
朝から変わらない、冷たい風が殺風景なこの場所を吹き抜けて、俺はまたぶるり、と身体を震わせる。俺はパーカーの前を開けているだけでこれなのに、夏服だけで平気そうにしている長倉さんが、ちょっと不憫に思えてきた。
長倉さんは、カチカチと携帯を弄り出す。
「気にしてたでしょ、夏休み前の変な噂」
「? ああ、あったね。実害がないからいいかな、と思ってたけど」
「坂田くんて1年のとき、カワイイ感じの先輩と付き合ってたじゃん。その人の前に付き合ってた人とか、いた?」
「……」
一瞬、喉に何か詰まったような気分になった。
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