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「知らなくても、無理はないけど。まあ、当たり前だよね。お姉ちゃんは先輩の息子さんに手を出した女……ってことだから」
どうしようもなく苦い感情が胸の奥に広がって、俺は俯く。
すると、西川さんは困ったように顔を傾けた。
「……実を言うとね。嫌な子だったら、坂田くんのこといじめちゃおうかな、って思ってたんだ」
「え?」
「でも、その反対。坂田くんの嫌いなところなんて、全然見つからなくて……困っちゃった。むしろ、その反対」
「……」
西川さんの顔を、じっと見る。すると、彼女は恥ずかしそうに顔を背ける。
「だから、この話もしないでおこうって、そう思ってたんだけど……急に不安になっちゃって。坂田くんが……お姉ちゃんのことなんて忘れてたら、どうしようって」
「俺が、他の人と付き合ってるから……?」
コクン、と頷いた西川さんは、相変わらず小型犬のようだ。
……さなえさんのことを忘れたことなんてなかったけど、西川さんを見てもピンと来なかった、ってことは──忘れていたのと同じことなのかな。
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