また、立ち尽くす。

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   すると西川さんは、スカートのポケットから眼鏡ケースを取り出した。プラスチックケースのそれをパカ……と開けると、中の眼鏡をかける。  その瞬間、ハッと目を見開いた。呼吸が止まるかと思う程、驚いた。どうして気付かなかったのだろう。 「小林さなえは──私のお姉ちゃんなの」  西川さんは、さなえさんとそっくりだった。 「両親、小学生のときに離婚したの。苗字が違うのは、そのせい」  カチャ……と眼鏡をしまいながら、西川さんは穏やかに微笑む。  俺の表情がわずかに動いたのを見て、さなえさんのことを覚えているということに確信を持ったようだった。 「同じ高校、同じクラスになったのは偶然。坂田くんの名前は知ってたから、すぐに判ったよ。どんな男の子なんだろうって、観察し始めちゃった」  ふふ……と西川さんはまた笑う。俺はと言うと、発熱の名残で少し痛む頭を押さえながら、彼女の話を聞いていた。 「私ね、お姉ちゃんのこと、すごく好きだったんだ……だから、坂田くんとあんなことになって、中学の先生になる夢諦めちゃったことが、可哀想で」  え、と顔を上げる。すると、西川さんはもう一度肩を竦めた。 .
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