千切れそうだと思った。

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   カーテンの向こうから声がして、そっちを見ると、長倉さんが嬉しそうな顔で覗き込んでいる。その顔に何かよからぬオーラを感じて、まだ何も言われてないけど俺は上半身を引いた。 「はい、坂田くんの羽織。やっぱり坂田くんは沖田だよねー。イメージぴったりで、カッコイイ」  差し出された浅葱の羽織を渋々受け取りながら、俺は長倉さんを見上げる。 「女子がウェイトレスってこと? じゃあ、俺達は?」  すると長倉さんはニコッと笑った。 「新選組の隊士に指名があったら、その席についてもらうの」 「は?」 「指名料がそのまま打ち上げの費用になるから、頑張ってね!」  長倉さんは俺の肩にポンと手を置くと、そのまま親指をグッと立てる。  それって、コスプレしただけのホストクラブで、喫茶店じゃないんじゃ……。  一応そう呟いてみたけど、誰も聞いちゃいなかった。 ゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚ 「判った。じゃあいたたまれなくなったら、とりあえず大げさに咳して濁してればいいよ」  何故か接客係のリーダーという役職に就いていた長倉さんをとっ捕まえて、話が違うと抗議してみたら(だって最初は普通の模擬喫茶って言った)、彼女の口からそんな言葉を引き出すことができた。  あと、俺の接客担当時間が3時間……なんて無茶な割り振りだったから、うちのクラスの実行委員を捕まえて、直させもした。  その理由が長倉さんが“坂田くんは絶対ウケる”と強く推したからだということが判明して、もう一度彼女に抗議した。  ぶつぶつ怒る俺の隣にいた斉木はずっと笑ってたけど、冗談じゃない。  というか、生徒会にばれたら怒られそうなんだけど。この営業。 .
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